真夏のスーパーに並ぶ
白菜の舞台裏 夜明けの高原から運ばれる、鮮度と真心
2024.09.12

真夏のスーパーに並ぶ白菜の舞台裏

真夏のスーパーに並ぶ白菜の舞台裏

真夏のスーパーに並ぶ
白菜の舞台裏 夜明けの高原から運ばれる、鮮度と真心
2024.09.12

丑三つ時。真夜中の畑の中に、ちらほらと投光器が灯り始め、その周囲で収穫作業をする人の姿が、畑に長い影を落とします。夏。長野県南佐久郡小海町。松原湖高原エリアの、早朝の風景です。標高は1200メートル前後。うっすらと空が明るみ始める頃には、気温によっては雲海が見られ、晴天なら暗がりの中から八ヶ岳が徐々にその姿を現し、満月には畑の上空に月が一際大きく輝くそうです。今回お会いした農家の皆さんは、自分の畑で何度となく写真を撮り、「農業を営む醍醐味の一つ」、とその圧巻の風景を見せてくださいました。「この景色見たら、今日も一日頑張ろうかなっていう気になるもんですよ」。

この畑を営む小池浩二さんも、この日は午前3時過ぎから畑へ。さとタボラ取材チームが畑に到着した4時過ぎには、投光器の周囲の人影は黙々と大地に向き合い、収穫作業の真っ最中でした。「全国の夏場の白菜の7〜8割は、この辺でつくっているんですよ」。長野県は、通年でも白菜の生産量全国2位を誇りますが(※)ここ、県の東部にある小海町や南牧村、野辺山高原、川上村などの高原エリアは、夏秋の白菜収穫量全国トップ。「この地域の農業は昔から、どかっと量をつくります。ほとんどの消費は首都圏などの都市部です。私たち地元では、夏こそ白菜をたくさん食べるけど、都会の夏は白菜のイメージがあまりないですよね」。(※農林水産省「野菜生産出荷統計」より)

確かに、夏場、首都圏のスーパーに並ぶ白菜は、1/2サイズか1/4サイズに切ってラップされ、「白菜の旬」とされる冬場と比べると、ずっと控えめに陳列されているのではないでしょうか。そんな白菜は、実はこのようにその日の早朝低温のうちに刈り取られ、すぐに出荷されたもの。野菜は低温だと呼吸を抑えるため、鮮度が維持しやすいのだそうです。白菜、レタス、キャベツ、ブロッコリーなど、この地域でつくられる高原野菜は、早い農家さんだと午前1時頃から収穫され始めるところもあるのだとか。収穫後は保冷庫や冷却装置で慎重に鮮度がケアされながら、その日のうちにスーパーの店頭に並びます。夏バテにも良いこれらの野菜ですが、特にこの地域の白菜には、鮮度抜群である他、夏特有の瑞々しさがあると言います。

「サラダだ!」さとタボラの深澤シェフが、畑でフレッシュな白菜をいただいて、感激の一言。白菜は90%以上が水分でできていますが、梅雨時期の雨をたっぷりと受けて育ち、朝霧に包まれながら収穫され、上からも下からも水に恵まれたこの時期の白菜は、水分量が特に豊富。そして、この地域の冷涼な気候、昼夜の寒暖差で甘みと旨みも増しています。そのことを証明するかのように、外側の葉と芯の部分では味が異なることを発見。外側に近づくほどサクサクとみずみずしく、中心に近づくほど甘みが増すのです。外側と内側の葉を交互に食べては、畑の中で唸るシェフ。瑞々しさを生かして生もよし、旨味と甘味を生かして火を入れてももちろんよし。おいしさのアレンジは無限です。

今回さとタボラの取材チームを迎えてくださったのは、4名の農家さんたち。(それぞれのご紹介はPeopleをご覧ください)皆さん就農歴もバラバラですが、それぞれの農業に向き合う姿から滲み出るように感じられたのは、「大変だけど、楽しそう」ということ。「就農して20年近く経ちますが、最近になって特に、農業って面白いと思うことが増えました」と、小池さん。「植物は生き物です。農家は生き物を扱う仕事ですから、一つとして同じ形、同じ結果になることがないんですよ」。野菜にストレスがかかると、苦味など味に反映されることもしばしば。できるだけ野菜に負荷をかけない方法や時間帯を選んで、1日の作業スケジュールが組まれていきます。早朝の収穫もその一端。しかし、思い通りにならないことも常。どうしてこうなったんだろう、と考えては、来年はこうしてみよう、と改善する。でも予想通りにいかない。「常に一年生ですよ」。

しかし、最近では「もっと常識が通用しなくなってきた」と感じることも。小海町の高原では、昔は夏場でも気温が35度以上になることは滅多にありませんでした。最近は毎年夏は猛暑。雨量が極端に多かったり、あるいは少なかったり。昔は10月には畑に霜が下りることも普通でしたが、最近はほとんどなく、夏のような気温が続くといと言います。「ストレスがかかると味にも響くし、病気にもなりやすいです。植物は自分が生きるために何かを犠牲にしますから」。夏の高原野菜のおいしさも、もしかしたら失われつつあるのかも知れません。

夏から秋にかけて、行きつけのスーパーで長野県産の葉物野菜を見かけたら、ぜひ、この収穫風景を思い出してください。夜明けの高原畑の静寂の中、一つ一つ手で刈り取られ、急いで出荷され、鮮度をそのままに運ばれてきたことを。最近ではとんかつの添え物に千切り白菜を出すお店もありますが、夏白菜の瑞々しい千切りはそれだけでもご馳走です。茹でてポン酢をかけたり、焼いたり煮込んだり、火を入れて甘味や旨みを味わうももちろんよし。夏に疲れた体を労り、食卓を彩ってくれること間違いなしです。

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