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久慈川水系を旅して 茨城県大子町視察ノート
2025.06.14

久慈川水系を旅して

久慈川水系を旅して 茨城県大子町視察ノート
2025.06.14

大子町のほぼ中央を南北に走る久慈川。大子町が位置するその上流域は「奥久慈(おくくじ)」と呼ばれています。久しく慈しむという美しいこの地名は、約1300年前の奈良時代に編纂された「常陸国風土記」にも記されているそうです。久慈川は、茨城県、福島県、栃木県にまたがり八方に谷が刻まれている八溝山(やみぞさん)を源流とし、南東へ下って日立市の河口から太平洋へと注いでいます。

大子町のおいしいものが生まれる現場には、この川の恩恵が脈々と流れています。水の豊かさに支えられるものづくりの風景を、今年もシェフたちと旅してきました。昨年に引き続き、最初にお邪魔したのは奥久慈茶の名家である髙見園さんの茶畑。

収穫前、新が輝く茶樹の上を心地く流れる水音と風、鶯の声。そんなのどかな茶畑の風景は、繁忙期の直前の「嵐の前の静けさ」と髙見園のオーナーの髙信さんは笑いながら、いつもの「煎茶エスプレッソ」と絶品の自家製お茶請けで私たちをもてなしてくださいました。

静かにせせらぐ水路は、とても澄んでいます。茶葉の栽培には、気象条件、土壌の水捌けの良さ、そしてその土地の水質が大きく影響します。

「茶葉は育った土地の水で淹れるのがやっぱり一番おいしいよ」。そうおっしゃるのは、「手揉み茶」の第一人者である小室園の小室さん。

全国手揉み茶品評会 農林大臣賞(1等1席)受賞履歴を持つ茶聖です。茶葉を丁寧に手摘みし、一芯二葉の姿のまま蒸し上げて、焙炉(ほいろ)で6時間かけて手作業で製茶する「手揉み茶」。最近では品評会も多く開催され、高級茶として知られます。


(小室さんが見せてくださった手揉みのデモンストレーション。本番は白衣姿で焙炉に向き合います)

小室さんに淹れていただき、手揉み茶の水色が限りなく透明に近いことに驚くシェフたち。機械とは違い手で丁寧に揉まれるため葉切れや粉がなく、濁りがありません。それでいて香り高く、茶葉本来の旨みが凝縮された味。茶葉が育てられたのと同じ水系の水で淹れ、一番煎じだけをいただく手揉み茶の粋な楽しみ方を小室さんから教わりました。

アルカリ性の水を好むというクレソンも、大子町では盛んに栽培されています。町内でいち早くクレソンの栽培を手がけ、奥久慈クレソンをブランド化した、「奥久慈ファーム」の藤田さん。

藤田さんはクレソンを乾燥させて微粉砕したクレソンパウダーなどのユニークな商品化により農産物の付加価値化に長きにわたり取り組んできた、町の農業を担うつくり手の一人です。

クレソンは、流水中や水湿地に群生するワサビ科の多年草ですが、 水が汚れると群生しない、水質が命の野菜。久慈川の河辺を散歩していると、クレソンが元気に自生しています。シェフが味見すると、ピリッと辛味が効いています。

「この久慈川上流の水は飲めるくらい綺麗」とおっしゃるのは、鮎釣りの達人、中野さん。流れている川の中にいる魚の姿がよく見える、自称「魚目」の持ち主。中野さんと川を歩いて行いると、川の中の鮎の居場所を見つけるコツが色々あることが分かります。

例えば石。石の表面の色が白いと苔が付いている証拠。鮎は歯ブラシのような歯で石の表面の苔をこそぎ落として食べるので、鮎がきた後は石が黒くつるつるとしています。石の色を見ていくと、鮎が通った軌跡がわかるのだとか。

河辺にひっそりと佇む鮎神社には、元旦にお参りするという中野さん。水難除けと鮎の豊漁を願って建てられた小さな神社です。

夜は中野さん宅にてバーベーキューでお腹いっぱい鮎を振舞っていただきました。久慈川の鮎は身が締まり、旨みがぎゅっと凝縮していて美味!

中野さんは釣った鮎をよくこうして町内の方々にも振る舞うのだとか。全てご自身で釣ったもの。その数も焼き方も都会では考えられない豪快さ。中野さんのあたたかいおもてなしと、(おそらく)鮎神社のご利益にあずかり、久慈川の豊かさを目の当たりにした、幸せな夜でした。

Information

茨城県大子町について
大子町観光協会HPはこちら

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