若き農家のエースを訪ねて 茨城県大子町視察ノート(2)
2025.04.23

若き農家のエースを訪ねて

若き農家のエースを訪ねて

若き農家のエースを訪ねて 茨城県大子町視察ノート(2)
2025.04.23

弱冠25歳で米農家を営む白井涼輔さんが、この日ご家族と同級生と3人で行っていたのは、お米の苗を作るため平べったいプランターに土を入れ、芽の出たお米を撒いて土をかけるという作業。大きな機械で1時間100枚ほど種を蒔くことができ、それを3人で240枚作るのが今日の予定なのだとか。白井さんのお米は、甘みが豊かだと評判で、数々の品評会でも高評価の実績も。どのような工夫をされているのでしょうか?

白井さん曰く、気候的な特徴が最も大きいとのこと。その日の朝も氷点下まで下がり、日中は20度以上まで暑くなるという寒暖差。稲は寒暖差を感じると、自分が凍らないよう糖を蓄えることで甘みが強くなります。周辺にある川は上流域の水で、夏でもずっと手を入れていられないほどの冷たさ。そんな冷たい水を夜に田んぼに引き込んで、日中熱くなった稲を冷やしメリハリをつけることで、稲が糖分を蓄えやすくしているのだそうです。また、1枚の田んぼの中で収穫量を増やしすぎないことで、お米の味をより濃く仕上げているのも、白井さんの工夫。水や気候など、土地の特徴に寄り添った米づくりにより、お米のポテンシャルが最大限に引き出されているようです。

小さい頃から憧れていた米づくり

町内でも同世代の米農家はほぼいないという白井さん。何がきっかけで就農されたのでしょうか?
もともと母方のご先祖が代々ここで米農家を営んでいた血筋ではあるものの、ご両親は会社員。おじいちゃんが60歳で退職後に就農されたのだそうです。物心つく時から米作りあるくらしの中で成長した白井さん。小さい頃から田んぼで遊び、稲刈りをしたり籾殻を運んだり、季節の農作業も手伝い、田んぼが大好きな居場所だったのだそう。「祖父の生き方がカッコよかった」。農業に勤しむおじいちゃんの姿に小さな頃から憧れも。そんな「米農家になるための英才教育」を経て、中学の頃には、米づくりで食べていこうと心に決めていたのだそうです。現在町内の農家の平均年齢は70歳以上。次の担い手がおらず荒れた田んぼも徐々に増え、大好きな田園風景が損なわれていくことに淋しさを感じていました。「誰もやらないのなら、やりたい人がやるべき」。着々と自力で準備を進め、奨学金なども手配して農業経営の専門学校で2年間学び、卒業後すぐに就農しました。

基本は水の管理や草刈りなど、日常的な作業はほぼ一人でやっているという白井さん。現在管理している田んぼは7ヘクタールほど。白井さん曰く、面積では一般的な兼業農家のレベルなのだそうですが、高低差の多い土地柄、小さい田んぼがたくさんあり、圃場枚数でいうと50ほどの田んぼを一人で手がけています。忙しい時は冒頭のような作業をお母様や同級生に手伝ってもらいます。

おじいちゃんの農作業姿を間近で見て手伝っていたとは言え、「身をもってやってみると全然違います」と白井さん。白井さんが高校の時にお亡くなりになったおじいちゃんの遺志を継ぐように、米づくりのノウハウは町の協議会に教えを請いに行き、畑を見に来てもらってアドバイスを受けながら試行錯誤する日々。そんな中で気候変動も身をもって感じたのが昨年。稀に見る酷暑に見舞われ、新潟でも不作の年だったそうです。稲が温まってしまうのを防ぐため、白井さんは毎晩8時〜9時ごろまで田んぼの水の入れ替えをして周り、朝は5時6時から水抜きの作業を行う毎日でした。

白井さんは白米以外にも、古代米と呼ばれる赤米や、奥久慈なす、ミニトマトやバジル、パプリカなどの野菜も手がけています。また、2ヶ月に一度大子町にゆかりのある人で運営される「大子ラクダマーケット」の実行委員を請け負ったり、一般の方向けの田植え体験や稲穂を使ったスラック作り体験など、いろいろなことに挑戦しています。
前述の専門学校時代は品川にあり、都内に住んだ経験も。コロナ禍の時に、通学路である品川駅港南口前のビジョンが毎日のようにテレビに映されていたそうです。品川から寮があった武蔵中原、武蔵小杉周辺までが生活圏で、その辺りでよく飲んでいたとのこと。東京での学生生活を経てから地元に戻ると、静けさの良さ、何もないところでゆっくりすることの豊かさなど、直感的な部分で地元の良さを再認識したそうです。そんな経験も相まって、東京の人がここの良さを感じ、遊びに来てくれるようなグランピング施設や田んぼアートなどの構想もあたためています。

白井さんの田んぼにお邪魔した時間、終始水路を流れる水の清涼感のある音が聞こえていました。「田んぼの中は周りが真っ暗なので星がすごく綺麗ですよ。これからの季節は、カエルが鳴く声で眠れないほど。四季を通じて、音や風景が変わるのが田んぼの良さ」と白井さん。この後は田植えの準備の時期。水を引き込むと、田んぼが巨大な鏡のように輝くのが楽しみだそうです。

(写真:田植えの苗になるため、土に蒔かれるのを待つ、発芽した玄米)

翌日は、有機米の栽培も志す、こだわりの有機農家さんを訪問!
視察ノート(3)に続く

Information 茨城県大子町と水穂村について

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白井涼輔さんについて
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