高台の農園から、
有機を元気に! 茨城県大子町視察ノート(3)
2025.04.23
高台の農園から、
有機を元気に! 茨城県大子町視察ノート(3)
2025.04.23
次の日も晴天。さとタボラ視察チームが向かったのは、有機農法で野菜を栽培している「さより農園」さんです。農薬や化学肥料を使わず、肥料は植物質のみを使用。その肥料も同農園由来のものを循環させて使っているというこだわりの農法について、オーナーの横手亮祐さんにお話を伺いました。
さより農園さんは、大子町の中の塙(はなわ)という場所に位置します。大子町は、山間の土地に農地が広がっているのが特徴ですが、塙は高台にあり、横手さん曰く「大子町の一等地」。大子町の中では珍しく、空が地平の近くまで開けた、開放的なエリアです。ちなみに、茨城県のこんにゃくの生産はほとんどここでつくられているそうで、さより農園さんの畑の近くにも、広大なこんにゃく畑がありました。
(写真:横手さんの農園に到着した取材チーム)
有機栽培は手がかかって大変というイメージがどこかありますが、さより農園は、さらに「植物性由来の循環型肥料のみを使っている」というこだわりの農園。どんな方がオーナーなのかと思いきや、横手さんは何とも物腰が柔らかく穏やかな方でした。最初に見せていただいたのは、腐葉土をつくるための「踏み込み温床」と呼ばれる技法。戦前からの伝統的な肥料の作り方なのだそうです。落ち葉と藁と米糠を交互に重ね、水を加えて足で踏み込んで発酵させます。毎年真冬にセットし、三日ほどで発酵が始まると60℃くらいの熱を帯びて湯気が立つのだそう。その後野積にしておいて2年待てば(実に、2年!)立派な腐葉土の出来上がりです。実は、葉っぱと共に混ざったカブトムシの幼虫が中で一役買っていて、中でせっせと葉っぱを分解してくれているのだとか。しばらく野積みにして放置した後にふるいにかけると、カブトムシの幼虫がゴロゴロ出てくるそうです。仕上げに、肥料中の通気性を確保するため籾殻燻炭を混ぜ込んだら完成です。
(写真:「踏み込み温床」。藁で囲まれた浴槽のような木枠の中に、大量の落ち葉が敷き詰められている)
トマトやナスといった夏野菜も、2月ごろのまだ寒い時期に種を蒔くため、昔はこのような発酵熱を利用したことが発祥と言われます。今は電熱線などを使うのが一般的ですが、横手さんは独自に本を読んで、素材と虫と時間に任せてごく自然な形で熟成を促す、この昔ながらの技法を試すことにしたのだそう。この他に使う肥料も、籾殻や米糠を使った「ぼかし肥料」というもの。こちらも、水を加えて1ヶ月発酵させることで、微生物などの良い菌増やし、畑に移し育てていくという考え方です。
(写真:左下は、2年野積みにして、かつ丁寧にふるいにかけられてさらさらになった腐葉土)
横手さんは就農して10年あまり。就農当時は大子町に有機農家はいなかったそうで、最初は教えてくれる人もなく、一人試行錯誤をしてきました。広大な土地を一人で草刈りし、その草や落ち葉で堆肥をつくって畑に還す。途方もない作業に思えますが、就農してから「割と順調にやって来れた」という横手さん。扱っている野菜は、キャベツ、レタス、にんじんがメイン。この地域でライバルがあまりおらず、売れるものを中心に、かつ有機農法でも安定供給が見込めるよう、10品目程度に絞って野菜を育てています。これから他に扱いたい作物は何かと尋ねると、有機米をやりたいとのこと。
(写真:几帳面に並べられたトマトの苗)
「子供たちの給食にうちの野菜を使ってもらいたくて」。横手さんは10年ほど前から給食センターに有機野菜を卸す構想がありましたが、最近になってようやく、時流も手伝ってか話が進んできたそうです。交渉がうまく進めば、今秋から人参が給食に採用される予定。「給食への卸しは、通常の値段の半目になってしまうんですが、量を出せば儲けになるので」。通常の値段は500gで150~200円のところ、給食に卸す場合は1kg200円ほどになるのだそう。え?こんなに手間暇をかけて、半額になってしまうの?有機野菜なのだから適正価格になれば良いですね、と言うと、横手さんからは静かながらも意志のこもったコメントが。
(写真:埼玉のご実家から苗をもらって植えたという「のらぼう菜」。苗の中央に見えるのは、土に戻る素材でできた「太陽熱マルチ」という生分解性ビニールによる雑草対策)
「僕が思うに、10年くらい前から、有機農業はあまり発展していないんです。技術と価格が問題なのかなと思っていて。安定して生産できる技術があれば、値段を安くできるし、もっと普及すると思っています」。どうやって価格を落とすかばかりを考えていると、他の有機農家さんに嫌われてしまうと笑う横手さん。「でも、高いと手が出ない人も多くなってしまいますよね。僕はいっぱい食べてもらいたいので。たくさんの人に、たくさん食べてもらうことに、有機農業の発展があると僕は思っています」。
(写真:横手さんと、そのお話に感銘を受け、いただいた甘くおいしい「のらぼう菜」のお土産にほくほくしている視察チーム。)
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視察ノート(4)に続く